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不安の原因は感受性の強さだけではない
「僕の脳から扁桃体を取り出したい」
トラウマ的な恐怖が強く残るとき、不安の強いマコトが口にする言葉です。
現在、マコトは不安を抑えるため1年半ほど前からエビリファイを服用中。状態が以前より落ち着いたのは、エビリファイの効果なのか、適応しにくい学校環境からホームスクールベースの生活へと変えたことでの安心なのかは私には判断がつきません。
不安感の強さは、彼がHSC(感受性が強い)であることも一因だということは、私自身(HSP)の感じ方からも想像がつきます。
マコトの場合は、それにプラスして感覚処理のアンバランスさによる影響がより感情へ影響していると感じています。感覚過敏と呼ばれる五感の過敏さだけではなく、平衡感覚(前庭覚)と固有覚の複雑な感じ方は、HSPの私にはないものです。それらは運動面に大きな影響があり、彼の自己肯定感を下げることに繋がり、またそれが不安にも連鎖しやすい環境を作っていると思えるのです。
変化する感覚過敏
また、不安が増すことでも感覚過敏が悪化するということは、マコトが幼児期から日常的に経験していて、不安感と感覚の過敏さはお互いに影響し合い、密接に連動していることを実感しています。
感覚の問題は固定的ではなく、その時々の、活動内容・周囲の人との関係などから影響される心理状態によって、過敏さはある程度の幅を持って変化していくということから、その日のマコトが過ごす環境によって、彼の過敏からの疲労度は変わります。
マコトは自分が適応しにくい環境では、不安さや緊張から感覚はどんどんと研ぎ澄まされ、過敏さは増す一方..普段ならイヤーマフ等を必要としない程度の雑音でも、必要になってくる場面が多くなります。学校では教室ごとの異なる匂いが気になってしまい、常にマスクもポケットに忍ばせている.. といった具合に。
また、ボディイメージが未熟で自分の体の境界線が曖昧な彼は、気温や湿度にも大きく影響を受け、寒さが不安感に繋がります。寒い冬の間に聴覚過敏が酷くなるのも、やはり幼児期から変わりません。
振り返れば、マコトが運動発達の遅れを自覚することで大きく自信をなくしてしまった園生活では、二次障害としての視線恐怖やチックとともに、やはり、感覚過敏が悪化したことも思い出します。
一方で、調子の良い時には、お気に入りの”チョコレートチャンククッキー”が食べたいと、人の多いスターバックスに入り、しばらく店内で過ごせることもできるのです。
HSCの場合は(五感の過敏)
微妙な変化にも気が付きやすいHSCの場合は、人一倍その影響が大きいために、特に注意が必要だと感じます。自分の気質について理解者がいない場はやはり安心できません..
HSCと、特に敏感な気質ではないという子とでは、『心の拠り所』となる存在の大きさは違うのかもしれません。
想像力と恐怖心と慣れ
五感の過敏さが、単に『不快さ』や『不便(聞きとりにくい・見えにくい等)』がだけではなく、『恐怖』を伴うことは、年齢が幼ければ幼いほど珍しくはないのではないでしょうか。療育園(毎日の療育施設)を経験し、複数の自閉症のお子さん達と親しく関わらせてもらってきた中でも感じてきました。
マコトが療育園へ転園前に過ごした公立幼稚園の先生が、「これくらいの年齢の子は誰でも過敏」と話されたことは印象的でした。経験の長い先生が感じられるように、恐らくその通りなのだと思います。
だけど、感覚の受け取り方に偏りがある子は、定型発達児の感じ方とは「感度が違う」ことについて、私は息子の主治医から説明を受けています。本人に抵抗のある活動を無理強いすることは、特に幼児期には絶対に避けたいことでした。
例えば..
マコトが素手での参加を強制された絵のぐ遊びで、マコトが感じた不快さについて主治医がお話された表現は次の通り。
「皮膚の下に無数の虫が這っているようなもの」
聴覚過敏にも触覚過敏にも言えることですが、大きな音も、気持ち悪い手触りも、『不快さ』に加え、『得体の知れないものへの恐怖』が、時にはトラウマを生んでしまうほど ”敏感っこ” を怯えさせてしまいます。
幼いがゆえの想像力の乏しさが、恐怖心を大きくしてしまう気がしてならないのです。
けれども、これらのことは、周囲の大人が特性を理解していれば、手立ては考えられます。事前に知らせること(音が出る前)や、音が出る『仕組み』をわかりやすく説明することで、心構えとしても違ってくると思うのです。
必ずしも、同じ現象にずっと恐怖を感じるわけではないはずです。可能なケースならば見通しを立たせたり、安心できる人・場所で、少しずつ無理のない範囲での刺激経験を重ねていくことで、慣れていくことは不可能ではないのではないでしょうか。
ただ場合によっては、このような特性を集団生活の中で先生に理解を促すことに苦労するかもしれません。
正直、細かな判断が苦手なタイプの先生に、敏感っこを徐々に刺激に慣らしていくような支援をお任せするのは心配でなりません..
活動の幅が広がったり、成長を促すことは有難いことですが、それ以上にトラウマのリスクは避けたいのが本音です。
診断のないHSCの場合は特に性格や気持ちの問題とされるケースも想像できます。また、たとえ自閉スペクトラム症の診断があったとしても、目に見えない感覚の問題に対する理解が曖昧だという先生・支援者の方もいらっしゃるかと思います。
日常的に過敏さに悩まされているにも関わらず、園や学校に理解が得られにくい場合には、その根拠として、診断の有無に関わらず、※感覚プロファイルを受け、結果を提出することもひとつの方法かもしれません、気になる方は医療機関や地域の相談機関などへ問い合わせてみてください。
※SP感覚プロファイル
感覚プロファイルは自閉スペクトラム症を中心とする発達障害の人たちの感覚特性を客観的に把握するために欧米ではよく使われている尺度であり、今般その日本版が刊行されました。この検査は、SP感覚プロファイル(保護者記入)、ITSP乳幼児感覚プロファイル(保護者記入)、AASP青年・成人感覚プロファイル(自己記入)からなっており、非常に簡便に、短時間で実施できるのが特徴です。 / SP感覚プロファイルカタログより引用
感覚過敏は治るもの?
根本的な治療方法はあるのでしょうか.. 世間には「治る」「治らない」どちらの意見も見られます。
私はマコトの感覚過敏について、基本的には生涯付き合っていくものだろう..と考えています。過敏のベースがあり、その中で大小様々な波もあり、「治った」と思えるほど調子の良い時期もあるかもしれません。
「恐怖心」については先に記した通りに、マコトの場合は経験からその原因について理解が深まってくることで軽減されていきました。
・年齢が幼いほど、経験の無さから恐怖心を感じるということ。
・想像力とも比例しているということ。
は、自然なように感じます。
「不快さ」については、私の場合は、経験によって軽減されるというよりも、その時々の自分の調子や環境に左右されているように感じていますが、これも個人によって差はあるのだろうと思います。
自分の限界値を知ること
どのような時に過敏さは強くなり、どのような時に気にならなくなるのか。また、これ以上無理をすると、後の影響が大きくなってしまうという限界はどこなのか。
こういったことを把握しておくことは、私の大切な役目だし、もう少し年齢が上がれば息子自身も自分を深く知っていくことで自分を守って欲しいと願います。
いま母としてできること
いまは私がマコトを注意深く観察することで、苦手な状況を回避したり、事前に対処法を考えたり.. また本人の安心できる状況では、音や光も気になりにくいために、あまり過保護にしすぎずに少しの冒険を後押ししてやることも効果的に感じました。ただこの判断にはとても難しくて、悩んだ末の判断でやはり無理をさせてしまったと反省することも..
運動面で困りごとの大きなマコトの場合、間違いがなさそうなのは、感覚統合からのアプローチが大切だということ。マコトの体の不安定さが不安に直結しやすいことは、側で見ていて実感しています。そして、彼が体を整えていく必要があることは、恐らく成人後も変わらないだろうと思います。
彼の生活の中で体へのアプローチが自然に組み込まれていくように、本人の意識も含めて、子どものうちにベースを整えておいてやることは、私がしておくべき役割なのかもしれない。
子育ては、敏感さのことに限らず、毎日の中で数えきれないほど多くの『選択』や『決断』に迫られるものだと母になって実感しました。そしてこれらには、とてもエネルギーを使います。
けれども成長の過程は、いつでもかけがえのない時間に感じられ、丁寧な『選択』や『決断』をすることを、妥協したくない自分がいます。
過敏さをプラスに考える
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