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HSCとASD〜脳の個性と発達障害〜
感覚の問題について。HSP・HSC(※1)の五感の敏感さと、自閉スペクトラム症(以下ASD)の感覚過敏は混同されがちです。HSPやHSCを ”特性の薄いASD”というように感じる人もいるのかもしれません。
しかし、HSPとHSCの概念を提唱したアメリカの心理学者・エレイン・N・アーロン博士は、HSP/Cの感覚処理感受性(Sensory-Processing Sensitivity :以下SPS)について、ASDに多くともなう感覚処理障害(sensory processing disorder:以下SPD)とは別物であることを強調し、HSP/Cは、疾患や障害ではない”脳の個性”だということを著書の中で述べています。
※1 Highly sensitive person / Highly sensitive child : 先天的に敏感な人・子ども
*ASDの定義として一般的に広く使用されているDSM-5・最新版には、感覚の項目が追加されています。
例えば、自閉症スペクトラムの場合は、感覚処理の過剰な負担に反応することもありますが、反応しないこともあります。自閉症の場合は、注意を向けるべきものと排除していいものとを見極めるのが難しいようです。ですから、人と話す時に、相手の顔よりも靴に気をとられてしまうことがあるのです。それに対して、HSPは顔をはじめとする社会的な手がかりに注意を払います。全ての情報を排除できずに受け止めたら、当然、子どもは過剰な刺激に圧倒されてしまうでしょう。自閉症スペクトラムの人は、自分が執着していることに対しては、ささいなことに気づいたりします。でも、社会生活では(人づきあいをしていく中では)、関係ないことのほうに注意を払いがちです。
『ひといちばい敏感な子』エレイン・N・アーロンより引用
【発達障害かどうかの見極め方】社会性の側面だけではわからない
一般的に、HSP/CとASDの違いは共感性と、共感性が及ぼす社会的な行動への影響などについて述べられていることが多いようです。HSP/Cは、ASDとは対照的に人の表情や場の空気をよく読むことから、このような違いに注目されるのかもしれませんが、こういった側面だけの見極め方だと ”両者を併せもつ” という視点には辿りつきにくいです。
社会性の違いにばかり注目していると、受容が難しいASDではなく、どうしてもHSP/Cの方へと自分(または家族)を当てはめやすくなるのは、自然なことのように思います。
ASDに多いSPDには、感覚過敏だけではなく、鈍麻(感覚の鈍感さ)が含まれます。転んでも泣かない、暑さ寒さがわかりにくいなどの鈍感さが確認できるお子さんの場合も、ASDの特性があるかどうかの判断材料になりそうです。HSCとSPDを併せ持つマコトの場合は、鈍麻が影響して運動面の課題が大きく、日常生活の困難さに直結しています。
また、鈍麻のお子さんは、自ら刺激を求めるような行動が目立つことがあります。マコトの場合は、2歳台では後頭部を壁に打ち付ける時期がありました。癇癪のように感情的にぶつけるのではなく、試してみたい・遊びのような感じで.. 。同じように、実験をしているかのような耳塞ぎを始めた時期とも重なっていて、いま思えば自分の感覚の違和感を感じ始めていたのかな、とも思っています。
五感の過敏さだけではなく、こうした鈍麻がある場合にもマコトのように感受性や共感性が強ければ、ASDであると同時に、HSCでもあると言えるのではないでしょうか。
SPSとSPD。両方を併せもつマコトを育てている自分には、全く違うものだと感じています。そして併せもつことで、それぞれが影響しあい、新たな課題がうまれているのが息子のケースです。
※HSP(Highly sensitiveperson )/ HSC ( Highly Sensitive Child)
深く考える・刺激を過剰に受ける・感受性が強く共感力が高い・些細な刺激を察知する、という4つの特徴に当てはまる、人一倍に敏感な子ども(HSC)と大人(HSP)。
▶︎ “骨折しても痛くない” ~ 知られざる発達障害「感覚鈍麻」~
参考 : サイカル journal by NHK 科学と文化のいまがわかる
HSCへの対処法〜ASDから学ぶ〜
刺激に敏感でストレスを感じやすいHSC。脳内の神経が高ぶりやすく、漠然とした不安に飲まれ、考え過ぎてしまう傾向もあります。また、普段は広い視野で物事を捉え、冷静に物事を判断することができても、情報過多になるとひどく疲れてしまったりも。
こうった気質のHSCへの接し方は、ASDへの支援方法と同じように接することで効果を感じてきました。例えば、以下のようなことです。
■五感の過敏さ → 環境調整
・少人数
・イヤーマフ・耳栓
・照明の工夫
・室内の目隠しや仕切り 等
■不安感 → 丁寧な見通し
・詳細な予定の確認
・終わりを示す
・視覚的な支援 等
マコトは見通しがなく不安を抱くと、感覚が研ぎ澄まされ、過敏が悪化するという悪循環に陥ってしまいます。
▶︎感覚と不安 マコトの経験談
また、これらに関連してネガティヴな記憶が残りやすく、トラウマになりやすい点も共通しています。躾の際にもASDと同じように、きっと人一倍に肯定的な言葉がけが必要なのでしょう。
それなのに自分に余裕のない時の自分が、このように接してやれないことも多く、反省ばかり。私の場合、特にマコトの運動面での発達不安が気持ちを焦らせてしまうことがあるのですが、マコトの苦手は周囲の先生方の助けを借りて、私はなるべくマコトの得意を伸ばせるように力を注いでいきたいと思っています。後悔しない育児をしていきたい。不器用ながらにそんな気持ちを抱きつつ、試行錯誤の育児をしています。
【注意点】ASD(発達障害)を併せ持つHSC
マコトの幼児期を振り返ると、HSCがASD(自閉スペクトラム症)をはじめ発達障害を併せ持っている場合、その対応にはより注意が必要です。物事を敏感に察知して、深く捉えるという気質上、どうしても非HSCのASD児よりも二次三次障害の可能性が高くなるのは必然的。周囲の大人が、本人の複雑な生きづらさを理解し難いがために、適切なフォローに繋がり難いことも影響するのでしょう。
ASDと、HSCを併せ持つマコトの場合、幼児期にこのような流れで新たな課題が生じてきました。
【公立幼稚園・年少での様子】
敏感・繊細さ
・表情や空気を読む
・友達に合わせる(トラブルにならない)
・人目を気にし過ぎて園で泣くのを我慢する
↓
発達障害としての困り感を見過ごされがち=必要な配慮を受けられない
↓
能力以上の課題設定
↓
失敗体験
↓
自己肯定感低下
↓
二次障害(視線恐怖から外出困難に〜退園・チック・過敏悪化)
問題行動=特性あり、というイメージが強いのかもしれませんが、言動が目立たないHSCはどうしても、先入観から発達障害が見過ごされやすくなります。そしてマコトがそうだったように、敏感な本人は自分と周囲との違いを自覚するタイミングも早いのだと思います。
この流れは予想がつかないことでは決してなかっただけに、出来る限りの選択肢を考えたものの、結果として幼いマコトに大きく自信を失わせてしまったことに対して、何とも言えない気持ちでいます。
本人の気質・特性に合わない環境(必要な支援が受けられないことを含む)へ、無理に身を置かせることは、二度と繰り返したくない出来事だと感じたことが、就学後にホームスクール へと移行を考えたことへも繋がっています。ただ、決してマコトの園に理解がなかったのではありません。現実的に目に見えないものに対して、そこまで深い理解を求めることが、それだけ難しいことだという風に、自分の中では考えが落ち着きました。
現在では世間に多くのHSP/Cに関連する情報が溢れています。
もし、”HSP/Cは発達障害ではない”という記事に、発達障害を併せ持つケースについてもその対処法が触れられていたとすれば、それは読み手にとって更に有益なメッセージになるはずです。HSP/C+発達障害の存在が、マイノリティの中のマイノリティだと考えると、更に困りごとも複雑だと想像していただけるはずです。
自分の子育て経験からは、HSP/Cの特徴に該当する=自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)などの特性を併せもつ可能性は、非HSPと同じだと考えるのが自然なように感じています。
もし、”HSP/Cは発達障害ではない”という内容だけの情報が、読み手の思い込みに繋がるとすれば、子どもの必要なフォローに影響が出てしまいます。(SPDに対して、感覚統合訓練はなるべく早期に開始することが効果的だと言われています。)
先に記述の通り、表面的な “先入観” から困りごとを見過ごされてしまったり、人格ができ上がっていく時期に、「努力不足」などと誤解され、自己肯定感を下げてしまうのはとても残念なことです。私は、就学後〜思春期にそれを回復させていくことが容易ではないことを、主治医から説明から知りました。
また診断がつかないケースであっても、医療機関での検査や診察から得た情報は、重要な道しるべになるように感じています。